生前の‟争続”対策のメインメニュー

相続開始後の相談で最もつらい相談は、残されたお身内間の相続争いです。いわゆる‟争続”です。

相続をきっかけにこれまで仲の良かったお身内間で対立が生じてしまうのは外部から見ていても本当につらいものです。一体何のために財産を遺したのかわからなくなってしまいます。だれも‟争続”をしてほしくて財産を遺すのではありません。多くの方は残された方を想われながら引き継がれていったはずです。

ただ、残念ながらその想いは必ずしも残された親族に正しく伝わっているとは限りません。その想いさえしっかり伝わっていれば親族間で争うことなく遺産承継をすることができた事例も多いはずです。つまり、亡くなった方の想いを正しく伝えることにより無用な争いをなくすことができます。そのような役目を果たすのが遺言書です。

遺言とは

遺言とは、「ゆいごん」また「いごん」といいます。どちらも同じです。

遺言とは、亡くなると同時に「身分上」あるいは「財産上」のことがらについて、法律上の効力を生じさせようとする意思表示です。

別の言い方をすれば、遺言は被相続人(亡くなった方)の法的な最後の意思表示です。

例えば「財産上」の意思表示の例としては「自宅は長男に相続させる」などが挙げられます。そして、遺言は被相続人(亡くなった方)の死亡によって効力が生じ、この例では原則として長男が自宅を相続することになります。

被相続人の意思として、法律上の効力が生じるという点では、売買や贈与などの契約と同じです。

売買や贈与の契約において、契約の当事者が認知症などを患っており、契約内容を把握できない=意思能力がない場合には売買契約等は締結できません。これは遺言の作成にも当てはまります。つまり、遺言も遺言の内容は把握できないような場合=意思能力がない場合には作成することはできません。

確かに遺言はご自身の死後を想定して作成するものです。しかし、だからと言って決して死の直前に作成をするものではありません。上記のとおり、意思能力がなければ作成することができません。つまり、心身ともに元気なうちに作成すべきものと言えます。

遺言書は、“争族”対策に有効です。

不動産の名義は、さらなる相続の発生や、後日に売却したり、融資を受けるなどして活用するときのためになるべくならば単独所有にしておくほうが望ましいとされています。
その点、相続財産が父親名義の自宅不動産であり、相続人が長男と次男の二人であった場合を考えてみますと、できるならば兄弟間の話し合いで自宅の名義を長男一人などと決めれれば理想的です。

この場合、自宅は長男のものになりますから、次男としては自宅を譲った代わりとしてそのほかの財産を取得したいと思うのが人情です。しかし、めぼしい相続財産は自宅のみということも決して珍しくはありません。
このような場合は、長男・次男ともに「自宅が欲しい」と主張することとなり話し合いがまとまらず、いわゆる“争族”に発展しかねません。

自身の死後、そのようなことが想定される場合には、あらかじめ遺言によってどの財産を誰に相続させるのかを指定しておくことで、無用な争いを防ぐことができます。

遺言は、遺言者の最終的な意思表示であることは先に記載のとおりですので、相続手続きにおいてはまずは優先して手続きが進められることになります。

このことから、遺言書は“争族”対策に有効であるとされています。
無用な“争族”を生じさせないためにも、生前よりしっかり対策をしておきましょう。

※なお、上記では事例を簡略化するため遺留分などは考慮していません。

遺言と似ているもの

遺言と似ているようで違いものを2つほどご紹介します。

遺言と似ているもの①(遺書)

「遺言は心身ともに元気なうちに作成すべきもの」でることは確かなことです。
とはいえ、遺言を作成するのは「縁起が悪い」と思われる方が多いのも事実です。
つまり、「遺言を作成する」というものに何らかの誤解があるように思います。

確かに遺言を検討するときは自身の死後を想定し、「死」と向き合う必要があるため、あまり気分の良いものではありません。
しかし、少なくとも遺言は遺書とは全く違うものであることはご理解ください。

遺書とは辞書で引くと「死後のために書き残した文書・手紙」とあります。

さらにインターネットのサイトであるウィキペディアでは「遺書は残される家族・友人・知人などに個人的なメッセ―ジを送る手紙の意味合いが強い。その中でなぜ自分が自殺をするのかという理由も語られることが多い。(中略)自殺に限らず、大病や事故などで死を覚悟した際にも遺書を残す場合もあ」るとされています。

このように遺書とは「死を目前にした際の家族などへのメッセージ」であり、「自殺」などの負の面も強い、と言うことができそうです。

一方、遺言は法的な効力を生じさせることができる法律文書です。繰り返しになりますが法律文書という点では、売買契約書や贈与契約書と同じです。そのため、遺言書を作成する際は、遺言を作成することによってどのような効力が生じるのかを把握できる能力=意思能力が必要です。つまり、遺言の作成時期は、死の間際などではなく、むしろ意思能力・判断能力が明確な元気なうちに作成すべきものなのです。

また、後ほどご説明するように、遺言の内容は法律で定められており、その内容は身分上・財産上の高度な判断を必要とします。この点からも、元気なうちに作成しておかなければならないという結論を導くことができます。

遺言と似ているもの②(エンディングノート)

昨今、終活(しゅうかつ)という言葉とともに「エンディングノート」もよく見かけるようになりました。あるアンケートでは、エンディングノートの認知率は9割を超えているそうです。

エンディングノートは、自分のこと・自分の気持ち・財産のこと・医療介護のこと・お墓のことなど、これまでの生き方を整理するととに、それに基づき終末期の希望などを書き記しておくものです。

生前に認知症などになり意思表示ができなくなってしまった場合に、エンディングノートに医療介護の希望が書かれていれば親族はそれを指針として対応することができ、親族の方の負担を軽減することができます。

また、相続人に対する気持ちを詳しく記すことによって、遺言によりたとえ表面上は不平等とも思える財産分けを指示していたとしても、いわゆる‟争続”になる可能性を低減させることができます。遺言をうまく補足している利用方法だといえます。

一方、エンディングノートには法的な効力はありません。したがって、法律が規定している「身分上」「財産上」の事柄については遺言を作成する必要があります。もっとも、エンディングノートが下記でご案内する自筆証書遺言の要件を満たしていれば、遺言として効力を生じる余地もありますが、疑義を生じさせること自体が“争族”のもとになりますので、遺言は遺言として作成したほうが良いでしょう。

遺言を書くことをおすすめする場合

1. 子供がいないご夫婦

子供がいない場合、夫が亡くなったときの法定相続人は、妻と夫の父母(=義理の父母)もしくは(夫の父母がどちらもいないときは、夫の兄弟姉妹(=義理の兄弟姉妹)になります。
相続人全員によって遺産分割協議をすることで必ずしも法定相続分通りに遺産を配分する必要はないのですが、残された妻(夫)にとって義理の父母・兄弟姉妹との話し合いは心理的な部分も含めハードルが高いことが容易に想定されます。
特に自宅不動産をお持ちの方は、あらかじめ遺言書を書かれたほうがいいでしょう。

2. 長男のお嫁さん(相続人以外)に財産を残したい

法定相続人以外に財産を残したい場合は、必ず遺言を作成しなければなりません。
法定相続人以外の者の例としては、「長男のお嫁さん」「内縁の妻」「養子縁組をしていない連れ子」「お世話になった方」などです。
長年、献身的に支えてくれたような場合であっても法定相続人がいれば、法定相続人以外の人には遺言書がなければ財産を残すことはできません。

3. 相続人の中に認知症や行方不明の方がいる

遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。それは、たとえ、相続人の中に長年行方不明の方があったとしても同様です。その場合、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるなどの特別な手続きが必要になってきます。相続人の中に認知症などにより自分の意思をしっかりと表すことができない方がある場合も、遺産分割協議を行う前に成年後見人などの選任手続きをする必要があります。
そのため、相続開始後に残された方の負担軽減と手続きをスムーズに行うためにも、遺言書の作成は有効です。

4. 子供の中でも相続分に差をつけたい

同じ我が子とはいえ、長年献身的にお世話をしてくれた子と、家を飛び出したっきり音信不通になってしまっている子では、残したい財産に差をつけたくなってしまうもの人情です。
そのように相続人の中で相続分に差をつけたい場合も、遺言書を作成し、遺言者の最後の意思を明確にしておくといいでしょう。
適法な遺言書には法的な効力が生じますので、遺言書の通りに遺産が分割されます。

5. 相続財産の多くが不動産

同じ我が子とはいえ、長年献身的にお世話をしてくれた子と、家を飛び出したっきり音信不通になってしまっている子では、残したい財産に差をつけたくなってしまうもの人情です。
そのように相続人の中で相続分に差をつけたい場合も、遺言書を作成し、遺言者の最後の意思を明確にしておくといいでしょう。
適法な遺言書には法的な効力が生じますので、遺言書の通りに遺産が分割されます。