相続のルールが改正されます。

平成30年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」と「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が成立しました。
これは昭和55年(1980年)以来の約40年ぶりの大改正だと言われています。
これによりいろいろな改正や制度の新設が行われていますが、大きく分けると次の3つです。

  • 遺言書の利用の促進に関する改正等
  • 配偶者の生活への配慮からの改正等
  • その他の改正等

詳しくは下記をご覧ください。
なお、下記以外にも改正点があり、ここでは主だったものをご紹介しております。

なお、法律の実施(施行)は、原則的には2019年7月1日ですが、実施項目により異なります。
第1段:自筆証書遺言の方式緩和→2019年1月13日
第2段:原則的な実施日→2019年7月1日
第3段:配偶者居住権等→2020年4月1日
第4弾:法務局により遺言書保管制度→2020年7月10日

遺言書の利用促進①:自筆証書遺言の方式緩和

2019年1月13日(日)施行

自筆証書遺言についても、財産目録は手書きで作成する必要がなくなります。

不動産や預貯金の財産につき、財産目録を添付する場合には、その財産目録はパソコンなどで作成してもよいことになります。
→自筆証書遺言は、財産も含め全文自署をする必要がありましたが、法改正により財産目録は自書ではなく次の方法でもよいことになりました。
①パソコンなどで作成し、印刷したものを添付する
②不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)を目録として添付する
③通帳のコピーを目録として添付する。
なお、自書以外で作成した財産目録には、各ページごとに署名押印をする必要があります。

※例えば不動産について遺言書に記載する場合、住所を記載するのではなく、登記簿に記載されているとおりに所在・地番・地目・地積・家屋番号・種類・床面積などを記載する必要があり、マンションなどは記載方法が特殊で記載の間違いなども多くなっていました。
また、不動産が多い場合には、記載すること自体が大変な負担となっていました。
そこで、財産目録をパソコンで作成したり、登記簿謄本自体を目録として添付することもできるように改正されました。

自筆証書遺言本文見本

財産目録見本

<<作成上のご注意点>>
①遺言書本文は自書する必要があります。
今回の改正は財産目録の記載方法の緩和です。
つまりその他の部分=遺言書本文の作成方法は自書であることはこれまで通りです。

②財産目録が両面になる場合
財産目録が両面になる場合は、両面に(表・裏の両方に)署名押印をする必要があります。

③2019年1月12日までに作成された自筆証書遺言について
2019年1月12日までに作成された自筆証書遺言は、従来通り財産目録を含めて自書しなければなりません。例えば、2019年1月1日に財産目録をパソコンで作成した自筆証書遺言を作成した場合、法律違反の遺言なので無効になります。

遺言書の利用促進②:法務局における自筆証書遺言の保管制度

2020年7月10日(金)施行

自筆証書遺言を作成した場合、法務局に遺言書の保管を申請することができます。

自筆証書遺言は公正証書遺言と比べ、遺言をしたことやその内容を他人に知られることなく作成できる点がメリットとされていますが、一方で、相続開始後も遺言の存在が知られなかったり、遺言書の紛失や、遺言書を発見した相続人よる破棄などが問題点として指摘されていました。
そこで、管轄の法務局において自筆証書遺言を保管する制度が新設されることになりました。

この保管制度により、遺言者の死亡後に相続人が遺言の有無を調査したりすることができるようになります。また、原本や画像データが法務局に保管されるので、原本の紛失や相続人よる破棄・変造などの心配がなくなります。
さらに、これまで自筆証書遺言を使用して手続きを行う場合、その前提として家庭裁判所の検認手続きが必要ですが、登記所保管の制度を利用することにより、その検認手続きが不要になります。

<<ご注意点等>>
①登記所保管制度は2020年7月10日スタートです。
②登記所保管制度の利用の可否
自筆証書遺言を作成した場合に必ずしも登記所保管制度を利用しなければならないというわけではありません。これまでどおり、登記所保管制度を利用することなく自筆証書遺言を手元などにおいておくこともできます。
③申請する人は本人のみ
保管の申請は必ず本人が管轄登記所に出向いて行わなければなりません。郵送や代理人による申請は認められません。したがって、長期入院中の方であったり、海外在住の方は利用が難しい場合があります。

配偶者の生活への配慮からの改正①:配偶者居住権

2020年4月1日(水)施行

配偶者居住権が新設されました。これにより、配偶者は遺産分割などにより被相続人と同居していた建物に、終身又は一定期間、無償で居住できるようになります。

例えば夫婦で同居していた際に、先に夫が亡くなった場合、残された妻はこれまでどおりその家に住み続け生活をしていきたいと希望していることが通常ですし、生活をしていかなければならないことから、一定の金銭等の財産を手元に残しておきたいという希望があります。
一方、妻が遺産分割によって生活の場としての自宅を相続することとした場合、それだけで相続分を満たしてしまい、満足がいく金銭等を取得できないこともあり得ました。
そこで、自宅の権利について「配偶者居住権」と「その配偶者居住権の負担のついた所有権」に分けることとし、妻はこれまでの所有権よりは財産的価値が下がった配偶者居住権を取得することにより、自宅への居住を継続しながら一定の金銭等の財産も相続ができるようになると考えられています。

配偶者の生活への配慮からの改正②:夫婦間贈与の特別受益の持ち戻し免除の推定

2019年7月1日(日)施行

婚姻期間が20年以上である夫婦間で居住用不動産を遺贈・贈与した場合、その遺贈や贈与を原則として特別受益として扱う必要がなくなり、遺産分割において配偶者の取り分が増えることになります。

その他の改正①:遺留分制度の見直し

2019年7月1日(日)施行

遺留分を侵害された者は、遺留分侵害額について金銭の請求ができるようになります。
一方、遺贈や贈与を受けた者が遺留分侵害額について金銭の請求を受けたときに、金銭を用意できない場合には裁判所に対して支払い猶予を求めることができます。

その他の改正②:相続人以外の親族の特別の寄与

2019年7月1日(日)施行

相続人以外の親族(例えば長男の嫁)が無償で被相続人の療養看護等を行った場合、金銭の請求ができるようになります。

これまでも「寄与分」の制度がありました。これは相続人のうち特別な寄与をした者に対するものです。そのため、相続人でない者、例えば親の面倒を長男の嫁が見ていた場合、嫁は相続人ではないため、寄与分の制度を適用していくことが難しいとされていました。
そこで、被相続人の相続人ではない親族(=長男の嫁)などが無償で療養看護などを行い特別の寄与をした場合は、相続人に対して金銭の請求(特別寄与料)ができるようになりました。
なお、「特別縁故者」の制度は、相続人が不存在の場合のものです。

その他の改正②:預貯金の仮払い制度

2019年7月1日(日)施行

相続財産に預貯金がある場合、各相続人は遺産分割前であっても一定額の払い戻しを受けることができるうようになります。

これまでは最高裁での決定があったことや銀行実務(商慣習)によって、遺産分割協議が終わるまでは相続人単独で預貯金の払い戻しを受けることができませんでした。
それにより、葬儀費用の支払いなど相続直後の相続人の資金需要に対応できていないと指摘されていました。
そこで、遺産分割による相続人間の公平を図りつつも、相続人の資金需要に対応すべく、仮払い制度が新設されました。

仮払い制度には2種類あります。
①家庭裁判所の判断を必要とするもの→大口の資金需要に対応
②家庭裁判所の判断を経ずに金融機関の窓口で仮払いができるもの→小口の資金需要に対応

上記②の金額は次のとおりです。
単独で払戻ができる額=
相続開始時の預貯金の額×1/3×払戻を求める相続人の法定相続分
※ただし同一の金融機関に対する請求の上限は150万円まで

例えば夫(被相続人)、妻、子一人、預貯金600万円の場合
妻は遺産分割協議終了前に単独で
600万円×1/3×1/2(法定相続分)=100万円
を払い戻すことができます。