相続手続でよくあるご質問(相続登記の期限)

父が亡くなり1年以上が経ちました。いろいろな手続きに追われていましたが、気が付くと不動産の名義はまだ父のままでした。相続税の申告は10か月などと聞きますが、不動産の名義変更に期限や罰則などはあるのでしょうか。

不動産の名義変更に期限はありません。

そのため、罰則などもありません。

ただし、長い期間放置すると手続きが困難になる場合もあります。

なるべく早めのお手続きをお勧めします。

相続登記に期限はない

不動産の相続による名義変更=相続登記には、相続税の申告期限のような期限は設けられていません。そのため、ご質問のように相続から1年以上経っていても相続登記を申請することができ、罰則などもありません。

ただし、だからと言って長期間父名義(被相続人名義)のままにしておいても良いかと言えば、それは別の問題かと思います。

その不動産を売却したり、賃貸したりするときや、その不動産を担保に融資を受けたりするなど、不動産を利活用するためには現在の所有者の名義に変更しておく必要があります。

相続時からしばらく時間が経ってしまうと、相続人の中にさらに相続が発生してしまったり、相続に必要な書類がそろわなくなってしまったりと、余計な手間や費用が掛かってしまうことがあります。

そして、そのために、売却ができなかったり、融資が受けられなくなってしまったりと不利益を被ることもあり得ます。

不動産の承継者が決まり次第、早めの相続登記をお勧めします。

相続人の一人が認知症を患ってしまった。

続登記を長期間放置してしまった場合に起こり得る事例が、相続人の方が認知症を患ってしまう場合です。

例えば、父が亡くなり、当初、母(A)と子2人(B、C)が相続したとします。相続財産である自宅不動産は父と母が使用していたので、母と子2人の間では当然に母が相続することとなり、相続登記をせずにそのまま父の名義にしていました。

しばらくは母一人で自宅で暮らしていましたが。一人で暮らすには広すぎるので、自宅を売却し、適度な広さの駅前のマンションに引っ越すことにしました。

そして、いざ売却をしようと不動産屋さんへ相談をした時、「まだご自宅の名義がご主人様名義になっていますので、まずは奥様名義に変更しましょう」とのこと。また、その際に「遺産分割協議を行う必要がありますので、相続人全員の印鑑証明書を用意してください」とのことでした。

この遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。また、認知症などで意思表示ができない方は遺産分割協議に参加できないため、成年後見人を選任してもらう必要があります。

実は、今回の相続では、相続人中のCさんが認知症を患い、全く意思表示をすることができなくなってたので、成年後見人を選任する必要があるようです。

では、成年後見人を選任すれば、それだけで売却は進むのでしょうか?

法定相続分での遺産分割になることが多い

残念ながら答えは「否」となる可能性が高いです。

これまで相続人間では「自宅を母の名義とする」という意見でまとまっていましたが、成年後見人は、認知症の方などの成年被後見人のために選任されます。そのため、基本的に成年被後見人の方の不利益になるような行為をすることはできないとされおり、遺産分割協議であれば、成年被後見人のために法定相続分を取得することが基本となります。

今回の相続では、遺産分割の対象となる財産は自宅不動産しかなく、Cさんのために法定相続分である4分の1を残しておくことになる可能性が高いです。

そうなると、母Aの取得できる持分も金額も変わってきますし、その他の相続人Bも何やら考えを巡らせてしまうため、まとまっていた遺産分割協議も振り出しに戻ってしまう可能性もできてました。

こうなってしまっては、当初予定していた売却もうまくいかないかもしれません。

成年後見はその後も続く

一度始まった成年後見は、当初の目的が達成されたとしてもその後も続きます。なぜなら、成年後見は成年被後見人のための制度だからです。

すなわち、仮に自宅の売買が成立した後でも、Cさんの成年後見はその後も続きます。もちろん、成年後見人を選任し、結局は自宅の売買ができなかったとしても成年後見をやめることはできません。

また、成年後見人の選任に費用や時間もかかります。

そのため、成年後見制度を利用する場合は、当初予定していた売却スケジュールでは進まない可能性が高いです。

相続が生じたり、行方不明になったり

上記では、相続人の中に認知症の方があった場合をご紹介しましたが、その他に、相続人の中にさらに相続が生じてしまった場合や、相続人の方が行方不明になってしまったような場合も考えられます。

いずれにしても、当初の遺産分割協議より手続きが複雑になってしまいます。その分費用も余分にかかる可能性が高いです。

このようにならないためにも、早めの相続登記をお勧めいたします。